箱庭ラボのブログシリーズ「箱庭WGのコアメンバー紹介」、3回目は高田光隆さんです。愛称、「みつ」さんです。これまでのTOPPERS/箱庭プロジェクトの成功は、一緒に汗を流したチームメンバーのおかげです。今回のインタビューでは、みつさんがどのようにして箱庭プロジェクトに参加することになったのか、その舞台裏を掘り下げてみました。
高田光隆さんのご経歴紹介
高田光隆さんは北海道石狩市のご出身で、坂村先生が提唱されたTRONの世界観に惹かれ、東京の大学に進学されました。当時は東京に行かないと最新の技術をキャッチアップできなかったのです。学生時代は、TRONの講習を積極的に受講し、先端の技術を吸収するとともに、様々な技術者とのコネクションを作りました。
大学卒業後は、メーカー系サービス会社に入社し、社内インフラ構築やルータの開発に携わりました。その後、1999年にTRONを世界に広めるスタートアップ企業に転職し、CESにも出展しました。
2001年には組込み系ソフトウェアの初期メンバーとして参画し、TOPPERSプロジェクトの初期企業会員としてIPA未踏やサポインのプロジェクトに関わりました。その他、高速ハンドオーバ無線ルータやクライアントアプリケーションの開発、NetBSDを使用したルータアプリ開発などに携わりました。また、TOPPERS/FI4やTOPPERS/HRPカーネルのターゲット依存部、Eclipseを用いたTOPPERS向け開発環境にも従事しました。
2011年からは名古屋大学 大学院情報学研究科 附属組込みシステム研究センターの研究員として、車載ソフトウェアプラットフォーム(AUTOSAR)や宇宙機向けソフトウェア、車載セキュリティに関する研究に従事されています。具体的には、AUTOSAR対応のTOPPERSコンフィギュレータの開発、AUTOSAR RTEの設計、クラウドIDEやVRでのAUTOSARモデルビューア、モデリング開発支援などの研究に取り組みました。2021年からは箱庭を使ったAUTOSAR教育プログラムの開発と講師を務め、さらにTOPPERSカーネルと宇宙機向けフライトソフトウェアを用いたプラットフォームの開発や宇宙機向け通信ソフトウェアのシミュレータの研究にも従事しています。
みつさんの経歴から、TRON技術への情熱と多岐にわたるプロジェクトへの貢献が伺えますね。
TRON技術の思い出の品々
TRONWARE とBTRONの招待
TRONWAREはTRONの雑誌で現在は200号を超えています。Vol.1はTRON協会(当時)に連絡をした際の返事で送ってもらったような記憶があります。その後札幌市内の書店で定期購読をして読んでいました。TRONキーボードの紙の付録をつけてほしいと投稿したところ、読者欄に掲載され実際に付録についたのは良い思い出です。
講習会資料
組込みの基礎やC言語からはじまり、BTRONの外殻(サービス)に関する講習を2年近くかけて行いました。一番右にあるのはTRONチップのマニュアルになります。まわりは社会人の方ばかりでしたが、よくしてもらった記憶しかないです。その後もお付き合いがあったりして、ここに参加してなかったらいまの自分は無かったです。
TRONチップ搭載のBTRONマシン(MCUBE)とTRONキーボードのTK1
MCUBEは研究・開発か上記講習会参加者で使用されていました。TRONチップ(GMicro300)が搭載され、TRONキーボードを使用して操作をすることが前提となっています。
TRONの世界観
みつさんの原点は、なんといってもTRONというテクノロジーとの出会いだと感じました。今でこそ当たり前となっているIoT(Internet of Things)という概念は、坂村先生によって1990年代に提唱されており、その当時、TRONプロジェクトの目標の一つであった超機能分散システム (HFDS)が示す「テクノロジーが未来を変える」という可能性を敏感に感じ取られたのだと思います。そのビジョンに強く共感し、ご自分のキャリアの方向性を知らず知らずのうちに設定されたのではないかと推察しました。
学生時代に受けたTRONの講習や講義は、みつさんにとって非常に刺激的で、みつさんの技術者としての基盤を形成する重要な経験となったのだと思います。TRONの世界観に深く根ざしたみつさんの情熱と技術力は、その後の多くのプロジェクトで活かされ、特に組込み系ソフトウェアの分野で大きな成果を上げることとなります。
ちなみに、若かりし高田広章先生との交友も、TRONを通した活動の中で培われたそうです。
社会人になってからの原点
大学を卒業されて、みつさんは当初、メーカー系の企業に就職されました。ご経歴を拝聴すると、その動き方は、まさに新しい技術を貪るように先端企業を転々とされたのだなと思いました。
最初に就職したメーカー系サービス会社では、社内インフラの開発やルータの開発に携わりましたが、それでは飽き足らず、TRONを世界に広めるスタートアップ企業に転職されました。そして、CESという国際的な技術発表の場にも参加されました。
この時、世界に打って出る企業の意気込みとCESという世界舞台での緊張感に魅入られたそうです。みつさんは、この経験を通じて、新しい技術やアイデアを世界に発信することの重要性を強く感じ取られました。
名古屋大学での活動
現在、みつさんは、名古屋大学大学院情報学研究科附属組込みシステム研究センター(NCES)の研究員として活躍されています。ここでは、主にAUTOSARや宇宙機向けソフトウェア(JAXA)、車載セキュリティに関する研究に従事しています。具体的には、AUTOSAR対応のTOPPERSコンフィギュレータの開発やAUTOSAR RTEの設計をご経験されてきました。
特筆すべき点として、当時、組み込み分野では、クラウドやVRでの開発環境の構築はまだあまり普及していませんでしたが、みつさんはAUTOSAR普及のために、クラウドIDEやVRでのAUTOSARモデルビューア、モデリング開発支援などの研究をNCESのコンソーシアム型共同研究の活動として積極的に推進されてきました。
そして、そこで得られた成果をベースにして、2021年からは箱庭を活用したAUTOSAR教育プログラムの開発と講師を務め、次世代の技術者育成にも力を入れています。さらに、TOPPERSカーネルと宇宙機向けフライトソフトウェアを用いたプラットフォームの開発や、宇宙機向け通信ソフトウェアのシミュレータの研究にも従事しています。
みつさんの名古屋大学での活動は、技術の最先端を追求しつつ、教育と研究の両方において多大な貢献をされていると思います。
APToolコンソーシアム型共同研究:
https://www.nces.i.nagoya-u.ac.jp/aptool/
箱庭へ
2019年夏、自分が箱庭という新しいシミュレーションプラットフォームの企画を打ち出して、様々な企業に一緒にこのような開発環境を作りませんか、と提案をしに行ったことを記憶しています。
その時に真っ先に相談に行った先は、NCESのみつさんでした。この絵です(今でも使っています)。
その当時は、どこの企業でも実現性や必要性が先に立ち、受け入れてもらえませんでしたが、みつさんは、「これだ!」と思われそうです。
その時のみつさんの感想
2018年が自分にとって一つのポイントだったなと思います。森さんはathrillを作成されていて、自分はRTEの開発もひと段落がついて、AUTOSARの巨大なソフト開発をどう使いこなすかという大きい問題を抱えていた時に、EclipseConに行ってOpenADx、Eclipse SUMO, OpenPASSといった、いまのEclise-SDV活動の発芽を感じました。そして早急に自分たちも仮想シミュレーション環境を持つ必要があると感じていた時でした。
Eclipse con france 2018 report
そして翌年2019年の夏だったと思いますが、箱庭のコンセプトを森さんからお話をいただきました。その時から「エンジニアが集まって手軽に全体結合/問題早期検出できる」とか「様々なアセットを利用して、いろいろ試せる」といった、箱庭のコンセプトを聞いて自分たちがやりたいことは、この方向性だなと感じましたね。
箱庭への期待や夢など
組み込み分野にかぎらず、私たちが開発を行うシステムは巨大・複雑化していく中で、エンジニアどうしが建設的に議論ができるサンドボックスとして箱庭を実現していきたいです。
今なら箱庭に参加すれば、「俺が箱庭を育てた」と言えます(笑)。いろんなドメインの方が参加していますので、各方面のスペシャリストの方と知り合えるのも箱庭の魅力ですね。
そして、デジタルツインが当たり前のように語られるようになりましたが、リアルとバーチャルがそれぞれ別の世界として存在するのではなく、気軽に行き来ができる究極のDevOps世界の実現に向けて箱庭には期待しています!
最後に
自分がみつさんと最初にお会いしたのは、2017年ころで、AUTOSAR RTEの開発をNCESさんから受託した時でした。
その当時、みつさんも自分も技術的に新しいチャレンジをしていたと思います。みつさんは、従来の組み込み開発プロセスや技術の壁に向き合っておられました。自分は、Linuxカーネルを中心とした実装技術から、より抽象度の高いモデリング技術習得へと向かっていましたしたので、ちょうどお互い技術転換期だったのだと思います。
プログラミングされた実装領域は、動くものベースですごくわかりやすくて楽しかったのですが、開発規模が大きくなると途端に破綻してしまいます。だから、物事を抽象化して考えよう、組み込みの世界にもモデリングが必要だよね、「AUTOSARはその先端を行っていますよ!」ってな感じで、日々勉強の毎日でした。その当時、自分はTOPPERS開発者会議というイベントに単身乗り込み、みつさんとAUTOSAR/RTEについて熱くかった日の夜は今でも覚えています。
みつさんとの交流は、単なる受発注という関係にとどまらず、技術者としてこれから必要となる組み込み業界のありた方を問うてディスカッションする仲間へと進化して行ったと思います。
箱庭の旅はまだまだ続きます。これからも箱庭WGで一緒に頑張っていきましょう!
略歴(高田光隆さん)
1996年:大学卒業後、メーカー系サービス会社にて社内インフラの開発・構築、ルータ開発に携わる
2001年:組込み系ソフトウェアの初期メンバーとして参画。
2001 – 2007年ころ:高速ハンドオーバの無線ルータの開発とクライアントアプリケーションの開発
2003 – 2006年:TOPEPRS/FI4, TOPPERS/HRPのターゲット依存部の開発
2011年 – :名古屋大学 大学院情報学研究科 附属組込みシステム研究センター 研究員として現職
2011 – :TOPPERSカーネルと宇宙機向けフライトソフトウェアを用いたプラットフォームの開発
2011 – 2013年:AUTOSAR対応のTOPPERSコンフィギュレータの開発
2012 – 2017年:AUTOSAR RTEの設計
2018 – 2021年:AUTOSAR開発支援の研究(クラウドIDE、VRモデルビューア、モデリング開発支援)
2021 – :箱庭を使ったAUTOSAR教育プログラムの開発・講師
2022 – :宇宙機向け通信ソフトウェアのシミュレータの研究
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