大阪・関西万博出展の舞台裏で協力してくださった方々の物語集 [第五話]


2025年4月29日。大阪・関西万博(大阪ヘルスケアパビリオン)の会場に、朝焼けの中、仲間と足を踏み入れました。

そのステージでは、視線入力で箱庭ドローンを操縦し、東尋坊へとリアルダイブ。碧い海の広がりを、ライブ中継を通して会場に届けることができました。

その傍らでは、箱庭ドローンのAR体験も始まっていました。連続5時間、150名もの来場者がゴーグルを手に取り、新しいドローン体験を届けることができました。

けれど、この「届ける」体験の舞台裏では、数え切れないほどの失敗と試行錯誤が積み重なっていたのです。

📘 前回までのお話

ALSを患いながらも視線でプログラミングを続けた友人・Areさんの姿に背中を押され、「視線だけでドローンを操縦する」挑戦が始まりました。藤沢・墨田での実験を経て、中野さんとの出会いにより操作感は改善。しかし接続の不安定さや視線が波に引っ張られる問題が立ちはだかります。そこで新しい機材を導入し、三度目の実験ではBボタンが原因と判明。機能を削りUIをシンプルにしたことで、操作感は大きく洗練されていきました。

──その積み重ねの先に、いよいよ本番の舞台が待っていました。

中野さんに再び試してもらう

視線入力によるドローン操作の最初の実験で見えてきた様々な課題。

牧野さんは、それらを1つずつクリアして行きました。

そして、迎えたその日(3月頃)、
シアンさんのオフィスにて中野さんに再チャレンジしてもらうことに。

そして、中野さんからの言葉は、

「格段にうまく操作できるようになりました!」

– 視線が当たった瞬間に反応するシンプルな仕組み
– 人が得意とする「上方向の視線」に合わせたUI再配置
– 波や光の動きを調整し、目標物を配置する工夫

それらが積み重なって誕生したのが、
“視線で飛ぶ箱庭ドローン”
でした。

中野さんが教えてくれたこと。

テストを繰り返す中で、VRゴーグルの話をしたときのことが印象に残っています。

中野さんも Quest3 を体験したことがあり、その感想を聞かせてくれました。

「アバターが立っていて、視線も立っている人の高さに設定されていた。その違和感で酔ってしまったんです。」

普段は車いすでの視線。だからこそ、VR空間で急に視線が変わると身体がついていけなくなる。

 僕たちには見えにくい大事な気づきを、中野さんは教えてくれました。

東尋坊との連携の壁

ところが、これで全てが解決したわけではありません。

「視線入力で箱庭ドローンを操縦し、東尋坊へとリアルダイブする」

その連携をどう実現するか。

新たな壁が、次に立ちはだかっていたのです。

視線入力で操縦する箱庭ドローンの映像は、会場のメインスクリーンに投影されます。
一方、東尋坊で飛ぶリアルドローンの映像は、YouTubeを通じてライブ配信。

それだけではありません。

  • オープニングやエンディング、バックミュージックの切り替えがまずあります。
  • また、トラブル発生した時に緊急対応するときの映像配信なんかもあります。
  • さらに、メインスクリーンの映像をどうやってモニタリングするか。

こうした“バックヤードの仕掛け”まで考えねばなりませんでした。

つまり、東尋坊側・ステージ側・バックヤード側を三位一体で連携させる必要がある。

そんな複雑な舞台をまとめられる人は、そうそういません。

シアンの岩井さん

元自衛隊員の岩井さん、この人も変態ですね。この複雑すぎる連携の仕組みを、まるで呼吸をするようにサラッとまとめ上げてしまったんです(少なくとも僕にはそう見えました)。

映像音声の切り替えは、シアンさん保有の ATEM Mini をお借りしました。

そして岩井さんは、東尋坊側・ステージ側・バックヤード側を一気通貫で整理し、全体をわかりやすい一枚絵に。さらに実際の組み付けからシステム運用まで、あっという間に仕上げてしまったのです。(いや、普通こんなの一人でやれる?)

さらに続きます

シアンさんのオフィスには、恐竜大スクリーンと呼ばれる組立式の大型スクリーン(130インチ相当)がありました。

実は、箱庭ARドローンには大きな課題がありました。
それは「操縦している本人にしか見えない」ということ。
周囲から見れば、ゴーグルをかぶって動いているだけで、体験が共有できないのです。

そこで岩井さんが提案してくれたのは――
「ARドローンの動きを巨大スクリーンに投影し、みんなで同じ体験を共有する」
というアイディアでした。

休日にもかかわらず、DITの岡田さんに協力いただき、Quest3でのARドローン操作をスクリーンに投影する実験を実施。

そして映し出されたドローンの動きは――
大画面だからこそリアルでわかりやすく、そして何よりインパクト抜群!
「これは万博で使おう」と即決されました。

このとき岩井さん自身にも初めてARドローンを体験してもらいました。

ちなみに、こちらが岩井さんに箱庭ARドローンを初体験いただいた時の映像です。

「え、これ……え、これすごい。欲しい、これ。」

岩井さん、ドローン操縦も普通にこなせる人なんですが(どんだけやれる人なんすか😅)、
その視点からもリアルさを大絶賛していただけました。

この瞬間、これまで積み上げてきた試行錯誤が、誰かの「欲しい」という実感に変わった。

その一言で、すべてが報われた気がしました。

シアンさんのオフィス往来のエピソード

墨田区にオフィスを移してから何度か足を運ぶうちに、周囲の飲食店の渋さと旨さにすっかり魅せられていました。行くたびに「今日はどこに寄ろうか」と考えるのも楽しみの一つで、それがちょっとしたモチベーションにもなっていたのです。

夜遅くまでの対応や休日作業も重なり、一区切りついたところでシアンさんのオフィス近くの居酒屋へ。慰労の乾杯でようやく肩の力が抜けました。

(う〜ん……ここのスタミナ焼きはやっぱり旨い!)

万博当日の催事

シアンの岩井さん、中野さんの協力もあり、無事に催事を乗り切ることができました。

中野さんには、初めての新幹線移動、そして猛暑の中での視線操作という大きな負担をお願いしてしまいました。当日のケアやステージへの移動サポートも十分にできず、心身ともにかなり疲れさせてしまったと思います。それでも最後までやり切ってくれて、本当に感謝しかありません。中野さんがいなければ、この催しは成立しませんでした。ありがとうございました。

岩井さんには、準備から当日の催事まで、映像と音声をすべて取り仕切っていただきました。もし岩井さんがいなければ、バーチャル観光の催事は形にならなかったでしょう。本当にありがとうございました。

そして最後に一緒に喜びを分かち合えたことが、何より嬉しかったです。感謝だけで終わらせず、次につながる活動へと育てていきたいと思います。

あ、忘れてはいけないのがもう一人。

本来は牧野さんが司会者の横で解説する予定だったのですが、技術サポートやステージ上のコントロールに追われてしまい、その役割を急遽、エクスモーションの吉元さんにお願いすることになりました。無茶振りしてしまったのに、当日はしっかりと解説をしてくださり、大いに助けられました。吉元さん、本当にありがとうございました!

ちなみに、当日の記録はこちらにしっかりとその感動と、その時にまたまた出てきたトラブル対応とそのドタバタ感をお伝えしております!ぜひご覧ください。

編集担当としてひとこと

牧野さんから頂いた22ページにわたる視線入力での万博催事の取り組み。
ぼくはこの文章を受け取り、最初は1回で編集を試みました。

けれど読み進めるうちに、これはとても1本では収まらないとすぐに気づき、3回に分けることに。
それでも足りず、最終的には4編に再編成することになりました。

牧野さんの文章は淡々とした事実の積み重ね。これをどうやって背景や技術の深さとともに読者に伝えればいいのか、ずいぶん悩みました。特にAreさんの話は、元の記載が半ページほどしかなく……。自分なりにAreさんの成果を体験し、調べ、ようやく自分の言葉で語れる気持ちになったのを覚えています。

凝縮され結晶のようになった牧野さんの情報を、どうしても伝えなければ。そんな使命感が、ここまで物語を続ける原動力になりました。

さて、この物語集もいよいよ終盤。
次回は、牧野さんの葛藤の日々についてお届けします。


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