先日のこちらの記事
「大阪・関西万博に箱庭ラボが出展します!」
でもお知らせさせて頂いた通り、箱庭ラボは協力企業の皆様と一緒に、大阪・関西万博へ出展してきました。
ご来場くださった皆さま、本当にありがとうございました。
あの空間で、みなさんと未来の体験を共有できたこと、心から嬉しく思っています。
……とはいえ、そこにたどり着くまでには、いろんなことがありました。
トラブル、再挑戦、仲間とのやりとり、そして奇跡のような瞬間。
本記事では、「舞台裏」で起きていたその物語を、少しだけお届けしたいと思います。
イベントや展示会には、いつも“表”と“裏”があります。表では、感動や驚きが演出され、それが当たり前のように広がっていきますが…、その光の裏には、いつも静かな格闘があるのです。普段はあまり語られることのない、そんな“裏側”にこそ、私たちが本当に伝えたかったものが詰まっていると思いますので、少しずつ爪弾いていけたらと思います。
帰りのタクシー
万博出展の後片付けが終わり、22時頃、みんなヘトヘトになって無言で帰路へ向かうタクシーの中、ふと自分の中でぼんやりと浮かんできたものは、2回目の挑戦で見たあの東尋坊の「碧い海」でした。

「あの東尋坊、本当に良かったですね」とつぶやくと、「うん、あれはすごかった」と静かに、そしてそこからその感動をみんなが熱く話し始めました。―― 疲れてヘトヘトなのに。
舞台の朝
2025年4月29日の朝5時。夜明け前の薄明かりのなか、この静かな舞台から始まりました。これまで試行錯誤を繰り返してきたその成果を、この日、この場所で「かたち」にすることを、ずっと追い続けてきました。そして、ようやくその日がやってきました。

東尋坊での出会い
遡ると、もう1年も前になります。2024年4月27日、JASAの牧野さん、チェンジビジョンの上馬さん、箱庭ラボの平鍋さんと一緒に、福井・東尋坊を訪れました。

そこで出会ったのが、ドローンとVRゴーグルによる擬似遊覧飛行体験を手がけていた「バーチャルスカイ」の上野さんです。当時の箱庭ラボは、まだ開発途上のドローンシミュレータを抱えており、リアルな飛行ノウハウも少ない、まさに暗中模索の状態でした。
そんな中、平鍋さんの「一回、体験しにいこうよ! 話聞いてみよう!」という軽やかな一言で行動が始まり、そこから毎月、上野さんに箱庭ドローンシミュレータを評価していただく日々が、約1年にわたり続いていきます。
その日々のなかで、上野さんが操縦しながら、
「うーん、ちょっと流れすぎますね」
「本物のドローンだと、プロポのUI上で機体の位置や傾きが直感的にわかるんですよ」
とか、いろんなご助言をいただきながら改良を続けてきました。
そして――完成した箱庭ドローンシミュレータを、最後にもう一度上野さんに操縦していただいたとき、「うーん、これはもう本物のドローン操縦と遜色ないですね」そう言っていただけた瞬間、心の中で思わずガッツポーズをしていました。こうしてリアルな動きを再現できるようになった箱庭ドローンシミュレータ。その成果を、大阪・関西万博という舞台でお披露目できたことは、本当に感無量でした。
DIT岡田さん、シアン岩井さんとの出会い
箱庭ラボは、2023年8月に設立されました。この会社の設立目的は、ビジネスそのものではなく、「箱庭」のコンセプトで人と技術を感動で繋ぐこと。そして、それを2025年の大阪万博という舞台で披露することが、最初のゴールでした。とはいえ、設立当初は、万博に出展するためのプランはまったくの白紙状態。誰もやり方を知らないなか、手探りで活動を進めていましたが、なかなかうまくいかない日々が続いていました。そんなある日。
友人の浪花さんと飲みながら話していたところ、
「一度、シアンの岩井さんと話してみたら?」という提案をいただき、
ご縁をいただいて、岩井さんに箱庭の技術プレゼンとドローンシミュレータの紹介をさせていただく機会を得ました。

──ですが、そのときは、それっきりで終わってしまいました。一方で、牧野さんからのご紹介で、DITの岡田さん(以前のブログ「技術とコミュニティで繋ぐ箱庭」で紹介させていただきました)にお会いする機会がありました。

さらにそのご縁でTISさんをご紹介いただくことに。そこで再び箱庭の技術をプレゼンさせていただいたことで、道が開けたのです。 「本当に、こんな奇跡があるのか」と思える瞬間でした。とはいえ、TISさんのイベント枠で1日まるごとの展示をやりきるには、ノウハウがまったく足りませんでした。どうしようかと悩んでいたとき、ふと「あ、シアンの岩井さんに相談してみよう」と思いつき、 Facebookでコンタクトを取ってみたところ――
「無償でやりますよ!」と、なんとも前向きなご回答をいただいたのです。今回の万博イベントは、間違いなく、DIT岡田さん、そしてシアン岩井さんの強力なサポートがなければ、実現できなかったと思っています。
視線入力によるドローン操作とリアル東尋坊観光
万博出展の道筋は見えたものの、イベントのテーマ「REBORN――“人は生まれ変われる”、“新たな一歩を踏み出す”」を、どう表現するか。本当に悩みました。
ですが、シアンの岩井さんとの出会いとバーチャルスカイの上野さんとの出会いがキーになると思い、ひらめいたのが、このシーンです。

箱庭ドローンシミュレータを障がい者の方に操作・飛行してもらい、あるルートでリアルな東尋坊に映像が切り替わっていくというもの。
ですが、ハードルはたくさんありました。「視線入力操作デバイスと箱庭ドローンシミュレータをどうやって繋げるのか?」また、「リアルな東尋坊の映像をどうやって万博会場に届けるのか?」。
ですが、ここでもまた救世主が現れるのです。JASAの牧野さんが現行の箱庭ドローンシミュレータをベースにして、視線入力操作デバイスと接続するための機能改良を行ってくださいました。さらに、映像配信については、友人の浪花さんが現地でのリアル配信を手伝ってくれましたし、その映像をバーチャルとリアル間で切り替える仕組みをシアンの岩井さんが構築してくれました。
さらに、視線入力操作を行われる障がい者の方として、シアンの中野さんが引き受けてくださいました。
2025年2月〜4月にかけて、この体験の完成に向けて、操縦訓練と東尋坊との実証実験を繰り返し、ようやく本番を迎えることができました。
いよいよ本番(1回目:序曲)
さあ、いよいよ本番、その日がやってきました。
本番直前。当たり前のように、舞台中央のLEDディスプレイにパソコンを接続して映像を出そうとしていたそのとき――
「あれ? うん? 出ないよ?……ええ〜、なんで〜?」
ここから、トラブルの連続が始まります。
最初は「ケーブルの接触不良かな?」と思いましたが、調査が進む中で、いくつかの問題が浮かび上がってきました。
まず、LEDディスプレイが4K非対応であることが判明。そこで2K出力に変換を試みるも、まだ映らない。
「え? なんでだ?」と困惑する中、解像度をさらに細かく調整して、
ようやく ―― パソコンの画面がLEDに映し出されました。
私はこのあたり、完全など素人でして……。ただ立ち尽くすしかなく、横でイームズロボティクスの技術者さん、JASAの牧野さん、シアンの岩井さんが必死に対応してくださるのを、モジモジしながら見守ることしかできませんでした。
そして、問題解決が終わった後、シアンの中野さんに視線入力操作のデモをやっていただくことになったのですが
――「あれ? 視線入力できない!」
その一言で、空気が凍りつきました。
原因は、直射日光。太陽の強すぎる光が、視線入力デバイスのセンサーに干渉していたのです。このとき私は、D・Aceの高本さんのところまで、トコトコと駆け寄っていってお願いしました。「何か、日光を遮る“壁”のようなもの、ありませんか?」すると高本さんは、笑顔で言ってくれました。「もりさーん、これ使ってください!」と、みかん箱と黒布を持ってきてくれたのです。その場でそれを使って、周囲を覆う工夫を始めました。……が、それでもまだ足りない。あれこれと試行錯誤している中、シアンの岩井さんが「ちょっと貸して」と言いながら、両手で中野さんの目の周囲を覆って、視線入力デバイスとのキャリブレーションに成功。「この方法でいこう」ということになり、ようやく視線入力操作が可能になったのでした。
このトラブル対応に約45分。結局、開始を15分遅らせることに。本当に、このときばかりは、肝が冷えました。
いよいよ本番(1回目:スタート)
準備万端、いざスタートです。
軽快なMCさん(スージー水谷さん)とエクスモーションの吉元さんのトークの中で、バーチャル観光とリアル東尋坊のイベントが始まりました。
……ただ、ここでもトラブルが発生しました。
実は、リアル東尋坊の映像はYouTubeでのライブ配信によって届けられていたのですが、映像が届くまでに約1分の遅延があることが分かっていました。
そのため、以下のようなシーケンスでタイミングを合わせようという話を事前にしていたのですが――

これがまったく機能せず。リアル映像への切り替えが中途半端な状態になってしまい、
ドローンが帰還する映像だけが流れるという結果に……。
そのとき、シアンの岩井さんが機転を利かせて、前もって用意していた録画済みのドローン映像を再生してくれました。ですが、これが思ったより長尺で、MCの方も混乱の中でセリフを調整しながら場をつないでくださり、なんとか事なきを得ました。
とはいえ――
「これはちょっと違うよね……」
という空気が、会場に残りました。
こうして、2回目の再チャレンジに託されることになったのです。
再チャレンジ(2回目)
シアンの岩井さんが、ここで吠えました。
「現地との電話連携、自分がやります!」
これまで、自分が東尋坊側との電話連携を担当していましたが、
映像ディレクターである岩井さんがタイミングを見て直接調整するのが最適だと感じ、お願いすることにしました。
そして私は――
視線入力を担当する中野さんの直射日光を遮る役回りへとシフトしました。
そして、迎えた2回目のバーチャル×リアル連携イベント。
中野さんが操縦するバーチャルドローンの軽快な動き、
MCさんの絶妙なトーク、
そして舞台裏で切り替えタイミングをコントロールしていた岩井さんの職人技が重なり、
スクリーンには、リアル東尋坊の映像が流れ始めました。
それを見た瞬間――
私は本当に、胸がいっぱいになりました。
映し出された映像の中では、
バーチャルスカイ・上野さんのドローン操縦テクニック、
そして実際に東尋坊を観光している人々の姿が、はっきりと映っていました。
ここ、大阪万博の会場と、遠く離れた東尋坊が、
ドローンを通じて“今この瞬間”でつながっている。
そう思ったとき、
「これはすごいことをやっているんだ」と、心の底から感動しました。そしてこの時、隣にいた中野さんと肩を叩き合いながら、
「いやー、本当にすごいことやりましたね。」と笑い合ったのでした。
最後に
これは、平鍋さんが1回目のイベントの後に撮ってくれた一枚の写真です。

写っているのは、牧野さん、岩井さん、吉元さん。
そして、中野さんと、私。
さらに――
東尋坊の現場でドローン操縦と映像配信を担ってくださった、上野さんと浪花さんも。

このイベントは、本当に奇跡のような出来事だったと思います。
誰が欠けても成立しなかったほど、繊細で、不安定で、でも、現場で皆さんが全力で支えてくれた。
だからこそ、こんなにも素敵な体験が実現できたのだと思います。
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